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十四歳

-後編-

「台風で学校休みにならないかなあ……」

セーラー服に袖を通して鏡を見ると、すごく疲れた顔が映った。ゆうべはあまりよく眠れなかった。榊としたことをずっと考えていたからだ。

キスをするのも、セックスも初めてだった。榊もそうだったのかもしれない。恐る恐るオレに触ろうとする榊の手がちょっとだけ震えていたのを見た。セックスのとき、何度も「ごめん」って謝っていたのを思い出す。痛くしたことに対して謝っていたのに、今思うと、「いやらしいことをしてごめん」とか、「好きになってごめん」も含まれていたのかな、と考えることができる。

セックスは子供を作るためにすることだっていうのは分かってる。それから、好き合ってる人同士がスキンシップのためにする行為だっていうのも知っている。でも、キスや体を触られたり舐められたりするのがあんなに気持ちのいいものだとは知らなかった。帰ってからもずっと、風邪のときみたいに体が熱いような気がしていたし、夜、自分のベッドに横になると、ムズムズしてしょうがなかった。布団を頭から被って、榊がそうしてくれたみたいに自分でそっと体を触ってみたら、昼間の感触がリアルに思い出されてすごく興奮してしまい、なんだか怖くなってやめた。

昨日のことを考えるとき、「榊がしたいって言うからやらせてあげたんだ」って思う。でも、やらせてあげたと自分が上の立場のように思うのはおかしい、という考えもあって、それは内心でオレもしたがっていたからなのだ。それなのに、男であり、オレのことを好きだと言った榊のせいにしようとしている自分がいる。

ああ、頭ん中がぐちゃぐちゃだ。考えれば考えるほど混乱する。榊はオレのことが前から好きだ。でもオレはその気持ちには応えられない。榊は友だちだ。これからもずっと友だちでいたい。オレはどうしたらいいのか分らない。オレは誰も好きじゃない。恋愛なんてよく分からないよ。イライラする。

中学に上がってから、クラスの女子と男子はそれまでよりもさらにくっきり分かれて、女子が男子だけの遊びのグループに混ざったり、男女二人で一緒に行動するなんてことは難しい雰囲気になった。それでも榊は女子とうまく喋れないオレに声をかけてくれて、女の子扱いもしなかった。オレは榊のその態度がありがたかった。榊はオレのこと分かってくれる奴だって思ってたのに。好きとか言って、結局オレを一番女扱いしていたのは榊だ。

オレはタイを適当に結びつつ、居間の戸を開けた。ニュースではさっきから台風情報が流れている。

「純、もうすぐ暴風域抜けるってよ。今日、学校はあるのか?」

「あるよー、特に連絡網回ってきてないもん」

「そうかー、ハハッ残念だったな」

金物屋の開店時間は朝七時と早い。店の合間に二階へ上がってきていた父さんは、笑いながらまた階段をトントン下りていった。今日はさすがにお客さん来ないだろうけど、台風が通り過ぎれば、家屋の修繕なんかで色々物入りになるんだろうか。この嵐と高潮じゃ塩害酷そうだもんな。明日からは間違いなく忙しくなりそうだ。

だらだらし過ぎて遅刻しそうな時間になっていたけど、昨日のことや目の前の台風でオレは朝からぐったりしていた。もういいや、遅刻しよう。オレはもそもそと味のないトーストを噛んだ。

おもいきり斜めに打ちつける雨の中を何とかして学校まで歩く。校舎へ入り、合羽についた雨粒を下足場でばさばさと払う。下駄箱にはまだちらほらと上靴があるのが見える。

「須藤さん、おはよう」

オレが合羽を丸めていると、後ろから声を掛けられた。

「おはよう」

クラスメイトの魚住さんだった。

「雨すごいねえ、来るとき大丈夫だった?」

魚住さんが傘の滴を落としながら尋ねてくる。

「うん、オレんち近いから平気だよ。魚住さんは?」

「私は親に車で送ってもらったんだけど、道が混んでて結局この時間になっちゃった」

エヘっという感じで魚住さんは首をかしげて微笑んだ。かわいいなあ、オレにはこういう女の子らしい仕草はできない。

時計は八時半を回っていて、オレも魚住さんも遅刻だ。けれど、今日はみんな同じように遅刻しているらしく急ぐ様子もないので、倣ってオレたちも滑らないようにゆっくりと足跡まみれの階段を上がった。教室のある三階まで上がる間、女子を相手に何を喋ったらいいのか分からなくて黙っているオレに、魚住さんは気を遣ってたくさん話しかけてくれた。オレはちょっと申し訳ないように思った。

教室に入ると榊は席に座っている。オレの方をちらっと見て、すぐに目をそらした。ホームルームはもう始まっているし、席は遠いから当たり前の行動なんだけど、オレはちょっと傷付いた。

胸の辺りがチクチクするような気がした。榊のバカ。

結局その日、オレは榊と喋らなかった。何もなかったように話しかけるのはあまりにもデリカシーがないんじゃないかって思って、近づけなかった。

放課後になって雨が止んだ。風はまだちょっと強くて、水溜りの表面にしわを寄せるように吹いている。まだ低い空の下で、びしょびしょのグラウンドを延々とトンボで均す。練習ができないのは好都合だった。今日は思い切り走れるような気分じゃなかったから。

一足先に部活が終わったのか、校舎から榊が出てくるのが遠くに見えた。女の子が榊の後ろから走ってきて、肩を軽く触った。立ち止まって、何か話をしているみたいだ。それからその子は榊にぺこっと頭を下げて、逆方向へ歩いて行った。後輩の子だったのかな。榊はその子と話す間ずっと笑顔だった。

「おーい須藤、何ボケっとしてんの?」

先輩の声にハッとする。

「あ、すみません」

つい手を止めて眺めてしまっていた。オレは焦ってトンボを引いて歩いた。蛇行して歩きながらぐにゃぐにゃする思考を落ち着かせる。

あの子と榊が一緒の方向へ歩き出さなくて良かった。オレはちょっと安心したのだった。

衣替えがあり、生地の分厚い長袖の制服に着替える。朝練と放課後は部活でユニフォーム姿なんだから、いっそジャージで登校させてくれればいいのに。それにスカートを穿いている自分の姿を見るのは嫌いだ。一年半この格好でいても、全然慣れない。

台風が通り過ぎて二週間とちょっと経った。あれから榊とはほとんど口をきいていない。下駄箱で会ったりするとすごく気まずくて、一応挨拶はする。それだけだ。

弁当食べたり、移動教室一緒に行ったり、休憩時間にバレーに混ぜてもらったり、一緒に帰ったり、そういうことはしない。他の男子とは相変わらず話したりもするけど、あまり仲良くするとオレを避けるために今度は榊の居場所がなくなっちゃう。だからオレはなるべく一人で行動するようにした。

一人でいるのを女子はすごく嫌がるけれど、オレはそんなに気にならない。もともとオレは女子の中では浮いた存在だったし、かといって男でもないわけだからこれでいいんだ。別にハブられてるってわけでもないし、気楽なもんだ。

女子とはいまいち話が合わない、というのはともかくとして、女子って女子同士のグループを作って、その中だけで仲良くする。オレはそれが好きじゃなかった。小学五年生の頃、どういう理由か知らないがクラスでハブられている女子がいた。そういう陰湿なのって気持ちが悪いと思ったけど、実際原因も何も分からなかったので、できるだけその子と一緒にいるようにした。すると今度は女子全員がオレを無視するようになった。そのハブられていた子は、オレへの無視が始まった日から突然、クラスの目立つ女子たちと仲良くなっていた。女子って友達が「あいつ気に入らないから無視しようよ」って言ったら、考えなしに従っちゃうんだ。自分が付き合う人すら自分で決められないのなら、それってつまりバカなんだと思う。そして自分もそのバカな女族なんだって思うと、気持ちが悪くて頭をかきむしりたくなる。

そういえば無視されだしてからしばらくして、自由席給食の時に一人で飯を食おうとすると、榊が「須藤も机くっ付けて一緒に食おう」って声をかけてくれた。榊とよく遊ぶようになったのはそれからだ。

考えが一周してしまった。一人でいるのは寂しくなんてないけど、榊と話せないのはやっぱりつまらない。

昼休み、オレは屋上で購買のパンを牛乳で流し込んでいた。屋上ではオレと同じように一人で食べているやつもいるし、二人で仲良く弁当をつつきあっているカップルもいる。グループではしゃいでるのもいる。

最近は弁当作ってないな。前までは榊をはじめ、男子連中に弁当のおかずを多めに作って行って分けたり、他の奴の弁当のおかずを貰ったりしていた。何を食っても「うまいなー」って榊は言うんだ。お世辞でも嬉しかった。

「須藤さーん!」

遠くからオレを呼ぶ声がして、考えは中断された。

「いやあ、ここにいたんだね」

ニコニコしながら魚住さんが駆け寄ってきた。魚住さんの手には購買のパンとフルーツ牛乳だ。

「ちょっと探しちゃった」

またエヘッと笑う。おっとりした喋り方で、声はお菓子みたいに甘い。

「お昼ご一緒してもいい?」

魚住さんが尋ねるので、

「うん、いいよ」

と答える。魚住さんがオレの隣に腰掛けた。

「あ、唐揚げドッグ」

魚住さんが袋から出したパンに目をやって、オレがそう言うと、

「ふふっ、今日は運良くゲット出来たんだ」

と笑った。フルーツ牛乳に唐揚げドッグ、早めに購買に行かなきゃすぐに売り切れてしまう。多分四時間目終了直後に購買まで走ったんだろう。てことは、この時間になるまでオレを探していたのかな。

「なんか、ごめんね」

オレが謝ると、

「え、何が?」

キョトンとして、それから「須藤さんが気にすることないよー」と魚住さんは笑いながらセミロングの髪の先をいじっていた。

「端っこの唐揚げ一個取っていいよ」

魚住さんが差し出すので、

「ありがとう。じゃあちょっと待って」

オレが玉子サンドをちぎって魚住さんに渡すと、

「ありがとう」

と受け取ってくれた。

「うまいね」

「うん、うまい」

魚住さんは吹奏楽部でクラリネットを吹いているのだそう。そうしてお互いの部活の話や先生の話などをしていたのだが、

「榊君と何かあった?」

不意にそう尋ねられて、オレはパンを喉に詰まらせそうになった。

「最近一緒にいるの見ないから」

「う、うーん……」

「あっ、ごめんね。別に詮索したいわけじゃないよ。ただ須藤さんいつも榊君と仲良くて、そういうの何かいいなあって思って見てたの」

オレが榊の名前を出されてつい困った顔をしてしまったから、話の方向をずらしてくれたのかもしれない。何だか申し訳ない。

そしてオレはちょっとびっくりした。よく見てるなあって。他の人たちが周りでどういう関係でいるかなんて、多少のことならオレはあまり気にしない性分なのだ。

「小学校の頃から仲いいんでしょ? 私、須藤さんと違って男子とあんまりうまく話せなくて」

魚住さんは苦笑する。

「オレも男みたいなもんだよ」

「そう?」

「そうだよー」

「じゃあ私、須藤さんとうまく話せてるかな?」

魚住さんはそう冗談ぽく言って笑う。

「ふふっ、オレ今こうやって話してて楽しいよ。魚住さん、気にしすぎだよ。男共にも普通に話しかければいいんだよ」

オレが笑うと、魚住さんもニコニコして「そうだね、ありがと」と言うのだった。

それからオレと魚住さんは時々昼休みに屋上で昼食をとるようになった。榊がいるから教室に居づらいというのも理由の一つだったけれど、魚住さんとたわいもないお喋りをするのが楽しかったのだ。たくさん話してみると、彼女は話しやすくて、意外とクールな性格なのだということも分かった。

また、オレと榊のことについて、気にはしてくれているようだが興味本位にあれこれ聞き出そうなんていうこともなかったので、ありがたかった。

女の子の友達ってのもいいもんだ、とオレは久しぶりに思った。

放課後、部活へ行こうと靴を履き替えているところで榊とばったり出くわした。気まずい。

「須藤」

「あ、榊……バイバイ」

必死に笑顔を作ってそう言うと、

「ちょっと待って」

思い詰めたような顔をして、榊はオレを引き留めた。それから階段横のデッドスペースまで移動して、

「大丈夫かな。その……俺、前にさ、中に出しただろ。だから、その……」

と、本当に申し訳なさそうに、小さな声で榊は尋ねる。中に出したっていうのは多分セックスしたときのことだろう。

「大丈夫。オレ、初潮まだなんだ。だから気にしなくても平気だよ」

「そっか……。いや、あんなことして今更聞くのも酷いとは思ったんだけど、何かあっても心配だから」

「いいよ、オレのことは気にしないで」

「ずっと謝らないとって思ってたんだ。本当にごめんな……」

「ううん、オレ平気だよ。じゃあ、もう行くね」

内容が内容だけにこそこそと寄り添って小声で話していたんだけど、それが急に恥ずかしくなった。オレは逃げるようにそこから駆け出した。

久しぶりに榊と挨拶以外の会話をした。声を掛けてくれて嬉しかったのだ。少しずつでいいから前みたいに話せるようになるといい。でもどうしてこんな甘ったるいような気持ちになるんだろう。

次の日オレは昼休憩に屋上へいた。フェンスの網目をジグザグと目で辿っていると、遅くなってゴメンと言いながら魚住さんが走って来る。

近ごろは売り切れ対策に、二人で手分けして買い物をすることにしている。四時間目が終わるとオレたちはそれぞれ購買と自販機に走る。それから屋上で待ち合わせて昼食。

「今日は焼きそばパン、唐揚げドッグ、それからカレーパンとチョコクロと小倉マーガリンだー」

魚住さんが戦利品を広げるので、

「ありがとう。オレも抹茶豆乳買えたよ、はい」

そう言って手渡す。

「やったー、ありがとう。それにしても須藤さん、甘いもの好きだよね」

魚住さんがストローを差しながら言う。

「うん、魚住さんは全然甘いもの食べないね」

「私はババくさいものが好きなのだ」

こういう何でもないやりとりが楽しい。

「そろそろ弁当にしようかな。また作りたくなってきた」

オレが言うと、

「あれって須藤さんの手作りだったの?」

と魚住さんは目を丸くした。

「うん、簡単なやつだけど」

「すごいすごい! 料理も出来るのかー、やるなー」

「本当にささっと出来るやつだけなんだって」

謙虚でもなんでもなく、本当に大して凝った料理でもないのだ。所詮弁当のおかずだから自ずとレパートリーは決まってくる。ただ、褒められると素直に嬉しい。

「明日魚住さんのも作って来ようか?」

「お言葉に甘えてもいいの?」

「もちろん」

「やったー、お願いします」

「唐揚げはまず入れないとねー」

そう言うと、魚住さんはキラキラと目を輝かせた。

「須藤さん結構家庭的なんだね。でも男前だよね。あっ、これは性格の話ね」

「魚住さんも結構男前だよ」

「ふふっ、本当?」

「うん」

「えへへ、嬉しいな」

魚住さんはセミロングの髪の毛の先を指でくるくるとさせる。

「須藤さんのこと名前で呼んでもいいかな?」

尋ねるので、

「うん、いいよ。オレ、純っていうから」

そう言うと、

「知ってるよー。私は優子って呼んで」

優子は首をすくめて、可愛い感じで微笑んだ。

そういうわけで、オレは放課後部活帰りにスーパーでたんまりと弁当の材料を含む買い物をした。

野菜売り場でうろちょろしていると、榊のおばさんを遠くに見つけた。オレがぺこりとおじぎをするとこちらへ歩いてくる。

おばさんと今日の晩ごはんは何にするかとか、主婦みたいな会話をした。それからおばさんは、

「明日から泊りがけで研修会なのよ、薬剤の。でね、お父さんもちょうど同じ方面に出張で、ちょうどいいからちょっと観光して帰ろうかなって思ってるの」

だそう。お土産何がいい? と聞いてくれるので、甘いものなら何でも、と答えた。榊のおばさんとおじさんは仲がいいらしい。敦司は一人で家に打ちやっておけばいいのよ、なんて笑うので可笑しかった。

次の日の昼は屋上で優子と弁当を広げた。美味しいと言ってもりもり食べてくれる。

「榊君はわりとモテそうな感じだけどなー」

と、だし巻き卵をつつきながら優子は言った。

「そうなんだ、知らなかった」

榊に告白された、ということを優子にだけは話した。オレが曖昧な返事をしてしまったからなんとなく気まずい、ということも。あの日二人でしてしまったことについてはとても言えないけど。

「あ、私の主観だからね、実際にモテてるかどうかは分からないよ。でも私、委員会一緒なんだけど私が話しやすいように話題振ってくれるし、同い年の男子では珍しく気配りできる感じだし、優しいし。ってこれは純が一番よく知ってるか」

優子の言うように、確かに榊にはそういうところがある。班での話し合いで、発言しない子がいたらそれとなく話しやすいように水を向けてあげる、なんていうことをわざとらしくなくできるのだ。他人にあれだけ気を遣っていて疲れないんだろうか、とオレなんかは心配になる。榊のそういう性格が恋愛と結びつくかどうかはよく分からない。いい奴だなって、そういうふうにはいつも思っているけれど。

「うーん、でも好きとか、恋愛とか分かんないんだ。優子は好きな人いる?」

そう尋ねると、

「いるよ。年上で、私から話しかけることもできないし、男の人が苦手なのに恋愛なんておかしいんだけど。片思いなんだよ」

と優子は即答した。

「そっか、そうなんだ」

「どうして?」

「いや、オレ誰かを好きになったことがないから、どんなもんかなーって、ちょっと聞いてみただけなんだけど」

「榊君は、やっぱり好きになれないの?」

優子は小さい子供に話しかける保母さんみたいな口調で、優しく聞いてくる。

「どう、なんだろ……」

オレがご飯に箸を刺したまま考えていると、

「あ、ごめん。追い詰めるみたいな聞き方して」

と優子は謝った。

「ううん全然。あのさ、自分がその人を好きってどうやったら分かるの?」

尋ねると、

「私は何の迷いもなくすぐに分かったからなー……」

優子はうーん、と呻って考え込んだ。

「嫉妬してる自分に気づいたら、とか。傍にいないときもしょっちゅうその人のことを考えるようになったら、とかかなあ」

グラウンドの方へ目をやると、榊たち、クラスの男子の何人かがバレーをやっている。榊は背が高いので、前列に来た時は強い。榊が今、ネットの前でぴょんとジャンプした。シャーペンの中のバネみたい。そして思いっきりアタック。一点入った。ガッツポーズをして、笑った。

結局、傍にいないと目で追ってしまう。オレはあいつが何してるか気になってしょうがないんだ。

「どうしよう、オレ榊のこと好きなのかも」

俯いてそう言うと、

「おおー」

優子は大げさに驚いて、パチパチと手を叩いた。

「やっぱりあいつが傍にいなきゃイヤだ。でも前みたいに戻るんじゃなくて、自分が女子の中で浮いちゃってるから榊と仲良くするんじゃなくて、オレ……」

オレを庇ってくれていたから、優しくしてくれたから榊を好きになるんじゃない。例えばもう榊がオレに話しかけてくれなくなって、ずっと冷たくされたとしてもオレは榊の姿を探してしまうだろう。いつから、どうしてこの気持ちが始まったのかは分からない。

「ああ、何でこんな好きなのか分かんない。やっぱり分かんない」

「好きになる理由なんて分からないもんだよ。それでいいんだよ」

「でも、優子の言ったみたいに、傍にいないときも榊のこと考えてるけど、でもさ、これは恋愛になるの?」

「分からなかったら、思ったままを榊君に伝えればいいんじゃないかな?」

頭を抱えたオレを優子は抱き締めてくれた。それから子供を寝かしつけるときみたいに背中をトントンとしてくれた。

「うん、うん……オレ、榊に好きって言ってみる。もうダメかも分かんないけど」

「頑張れ」

夜はもう0時になろうとしていた。オレは須藤金物店のスチール製の階段を、なるべく音を立てないように、ものすごくゆっくりとつま先だけで下りている。何となくうしろめたいのもあって父さんが寝付くのを待っていたらこんな時間になってしまった。

榊は今晩、家に一人でいる。あいつの好きなおかずを夜な夜な作って弁当箱に詰めた。おすそ分けなんて、ちょっとベタだったかな。ああ、なんかすごく女の子っぽいことをしているみたいで恥ずかしい。あいつに弁当作るのなんて初めてじゃないのに。

夜中の商店街はゴーストタウンだ。アーケードの中は真っ暗ってわけじゃないから却って気味が悪い。店と店の間の細い隙間からゾンビが飛び出してきそう。

「あー、あー……、怖くないー、怖くないよー」

とにかく口を動かしながら、榊の家へ急ぐ。

もう寝てたらどうしよう。起きてても、オレだって分かったら会いたくないって言われるかもしれない。それでも勇気を振り絞って、オレはチャイムを押した。

「はーい、誰?」

しばらくして、ものすごく不機嫌そうな声がドアの向こうから聞こえた。

「あの……須藤、だけど」

こわごわと答えると、ガチャガチャとチェーンを外す音が聞こえて、ドアが開いた。

「お前……」

「榊っ、晩ごはん食べた?」

「えっ、いや……まあ。ラーメン食べたけど」

「あ……あのっ、これっ!」

オレは包みを差し出して、

「沢山作りすぎて、余ったから……よかったら明日の朝にでも」

そう言うと、

「こんな夜中に?」

榊はクスクス笑った。迷惑そうな顔を向けられたら、そのまま帰ってしまおうと思っていたからホッとした。

「ありがとね」

そう言って、ひょいっと包みを受け取ってくれる。オレがそれ以上どうしたらいいのか分からず玄関でまごまごしていると、

「まあ、上がんなよ」

そう言って、榊は手招きしてくれた。

「今日、家に一人で留守番してるっておばさんに聞いたから」

「ああ、両方とも出張だって」

「そう……」

「夜、家に一人なの知ってて来るってのは、どうなんだろうな」

恥ずかしくてかあっとして、オレは何も言えなかった。

「ごめん、ヘンなことはしないから」

榊は呟いて、背中を向けて居間へ歩いて行く。前にヘンなこと、したよな。いきなり思い出させないでほしい。恥ずかしい。

「ところでコレ、食っていい?」

包みをほどきながら榊は言う。

「あ、うんっ。どうぞ!」

テーブルに弁当箱を広げた。榊はいつものようにがっつく。

「うまいな」

「よかった……」

「話したかったんだ、こうやって」

榊はうまそうに筑前煮を頬張っている。

「うん……オレも」

オレはちょっと安心している。でもいつ切り出そうか、そんなふうにも思って緊張もしている。考えていると榊が箸を置いた。

「俺、お前のこと忘れるように努力するから」

そう言われた途端、例えでもなんでもなく胸がズキっと痛んだ。何て言ったらいいんだよ。

「俺たち、ゆっくり前みたいに戻れたらいいって思ってる。だから――

クラスの女子全員から無視されたときより遥かに傷付いてる。いやだいやだ、絶対にイヤだよ。

「え……須藤、泣いてんの?」

我慢してたのに、簡単に決壊した。家族以外の人の前で泣いたのなんて久しぶりだ。榊にだって見せたことなかったのに。ああ、カッコ悪い、でも止められない。

「オレ榊に、一緒にいて欲しい。あれからずっと、榊のこと目で追いかけてるし、気になってしょうがないし、好きだ……。気付くの、遅すぎたかな」

「え、本当?」

「ほんとう……」

「無理、してない?」

「してないよ、本当だよ! オレの、カレシになって……」

涙声になってうまく喋れないのに、榊は何度も質問してくる。

「俺でいいの?」

いいに決まってるじゃん。どれだけ確認したいんだよ、ばか。

榊は「遅くないよ」って言って、涙でぐしゃぐしゃなオレを懐の中に収めてくれた。ぺとっとくっ付くと、いい匂いがして、あったかくて安心する。

「榊のほっぺ、ザリザリする」

こめかみに榊の頬が当たっている。男子はもうひげが生えてるんだ、とちょっと感心する。

「ああ、すまん。剃ってないから」

「男の人だね」

そう言うと、どうしてか榊の目はちょっと泳いで、それから濡れたままのオレの下瞼に唇を付けてくれた。

「その……なんだ、一緒に寝るか」

榊の顔はこの間みたいに真っ赤になっている。

「う、うん」

オレも多分、同じような顔してるんだろう。

榊にパジャマを貸してもらった。いつの間に榊はこんなに大きくなったんだろう。小学校の給食当番の白衣は同じサイズのだったのにな。シャツを羽織ると袖はぶかぶかで手の先まで、丈は足の付け根がすっぽり隠れた。ズボンは穿けなかった。そもそもウエストゴムがゆるすぎるし、丈も長すぎる。

榊の部屋に入る。中途半端な格好をしたオレをぱっと見た榊はふらふらっと立ち上がって、電気をパチンと消した。暗闇に目が慣れないのでぼやっとしていると、榊が腕を引く。

そのまま引っ張っていかれて、足元がふかふかするなと思っていると、

「見える?」

そう聞かれたので、

「ん、ぼんやり」

答えると、

「座って」

言われたとおりにぺたっと座り込むと同時に抱き締められて、そのまま布団に押し倒された。榊の影が覆い被さってきて、にゅるっと口の中にあったかいものが入ってくる。榊の舌がオレの口の中でぬるぬる動く。オレがその舌を唇で捕まえると、榊は少し顔を傾けてもっと深く入り込んできた。ふうふうって、オレたちの呼吸の音がうるさい。夜は静かだ。この間みたいに雨の音に邪魔されない。

舌の裏側や、口蓋を舐められると体が熱くなった。

「恥ずかしい……」

「俺だって恥ずかしいよ」

「嘘だ。榊は絶対余裕だよ」

「全然余裕ねえよ」

「や……はぁっ……」

榊は唇からほっぺを掠めて、耳を舐めてくる。反対の耳を指で塞ぐから、くちゅくちゅっていやらしい音が頭の中に響く。

舐めながら、耳元で「須藤」って掠れた声で呼ばないで。オレどんどんヘンな気分になってくるよ。もっと触って、オレの色々なところ探して、ぐっちゃぐちゃにして欲しいって思っちゃうじゃん。

パジャマの二番目のボタンだけ外して、そこから榊の手が忍び込んできた。指先で乳首を弄られる。

「んなっ……、や……先っちょばっかり、弄っちゃ……」

「だって胸、掴むと痛いんだろ?」

「軽くなら、平気と思う、けど」

「こう?」

榊は手のひら全体でふわっと押し上げるようにして胸を触ってきた。オレより一回り大きくてごつごつした榊の手がそこを慎重に揉む。この前よりもっと触り方がいやらしい気がする。それともオレがそういう気分だからそう思うのかな。

「あ、うん……」

「陸上部ってさ、走った後とかマッサージするんだろ?」

「う……ん」

「揉み放題だな」

「ばっ、バカ! 胸揉んだりしないよ」

胸をやわやわ揉まれながら、乳首を指で挟んで捏ね回される。乳首のてっぺんをぐにぐにって擦られると、お腹の辺りがじんじんする。まだ触られてるのは胸だけなのに。

「他の所は揉ませてるんだろ」

太ももをいやらしく撫でる反対の手が内側へ滑り込んできた。

パンツの上から股の柔らかいところをぷにっと押されて、思わず腰が跳ねる。

「わっ、やだっ」

「この辺とか揉まれてないだろうなー」

「す……るわけないだろっ、バカか」

くにくにと押されて、割れ目に布地が食い込んできた。どうしてかその部分が湿っててベタベタする。この間は榊の唾でベタベタにされたけど、なんで今こんなになってるんだろう。

「こんな所弄るの俺だけだよな」

「当たり前だろ……」

「俺だけだって言って」

眉毛をハの字にして榊はオレにねだるんだ。何でこんなのでキュンとしちゃうんだろう。オレ、ばかみたい。

「榊だけだよ、触らせんの……」

またキス。めいっぱい舌を入れられるキスだ。オレも舌を出すとちゅうちゅう吸われる。背中がぞくぞくする。

「ん……、んんんっ……ふ」

パンツの中に手がするっと入ってきて、さっきまで布越しに弄っていた所を直接開かれる。割れ目のところを上に引っ張るように広げられて、先っちょをむき出しにされた。榊は湿っているのを確認するように、指でぴちゃぴちゃと音を立てた。

「ああっ、やっ……また先っちょばっかり……ンっ……」

「先の方が気持ちいいようにできてんのかな。ココも、ココもさ」

言いながら乳首をきゅっと摘んで、下はオシッコの出るところを指でいじくられた。触られてるところがヒクヒクする。足の痺れが取れそうなときじわーっとする感覚にちょっと似てる。

「ああっ、やだぁっ、やだよっ」

「俺の先っちょも触ってくれる?」

そう言って手を取られた。トランクスをずり下げて、榊の硬くなったちんちんを握らされた。すごく熱い。

「えっと、こすったらいいのかな?」

尋ねると、榊はちょっと辛そうな顔をしてこくんと頷いた。

こんなに硬いのに、男にとっては弱点なんだよな。そう思うとちょっと笑えた。その弱点を自分の手に預けられているって、これもまた可笑しい。そしてちょっと嬉しい。

「こないだはよく見えなかったんだよね。これ、大きい……のかな?」

「普通、なんじゃないの、多分」

「でもオレには大きかったな。痛かったし」

先のつるっとしたところの下の境目をしごく。先の方から透明でぬるぬるしたものが溢れてきた。それを全体に塗りたくってあげると、よく滑る。男子は誰でも、エロいことを考えながら自分のをこんなふうに触ったりするらしい。榊もしているのかな、想像すると何だかかわいいな。

「すごいね、涎みたいなの出てきたよ」

「うわっ……ヤバい」

オレがちんちんを擦ると、榊も止まっていた指の動きを再開した。しかもさっきよりもしつこい弄り方で。オレのオシッコの穴に近い場所を指の腹でねちっこく擦り上げる。榊が弄るせいでなんか尖っちゃってるかも。触ると敏感になるみたいだ。

「あっ、あぁ……は……ん」

これじゃ手元に集中できないよ。何回も顔を上げて榊にキスをする。口の周りを唾でベタベタにしながら、お互いの気持ちいいところを弄り合っている。

「待って、イきそう……」

しばらくそうしていると、榊が顔を歪めてそう言った。行くってどこに?

「えっ?」

「ちょっ、待っ――

勢いよくちんちんの先から白い液体が飛び散った。この間したときはオレの中にほとんど出されちゃってたけど、精液ってこんなにぴゅって出るものなんだ。

「わ……すごいね」

「ごめん、汚して」

「射精? するときのことをイクって言うの?」

尋ねると、もごもごと榊は唸って頷いた。

手についてべとべとしている精液を舐めてみた。しょっぱくてちょっと苦い。口の中に残る味だ。正直言ってまずい。でも全然嫌じゃない。

「こら、ばっちいからやめなさい」

そう言うと榊はオレの手首を掴んで引き上げた。

「ばっちくはないよー。まずいけど」

「恥ずかしいからやめてくれ」

「榊だってオレの……舐めた、でしょう?」

「お前のはばっちくない」

「そんなのおかしいよー!」

「おかしくないの!」

「いやだ、オレももっと舐めるっ」

「わっ、ちょっとまだ拭いてなっ、コラ!」

先の方にはまだたっぷり精液が付いていて、粘っこかった。オレはそれをきれいに舐め取ってあげて、咥えた。

ちゅぷっちゅぷって音を立てる。先の膨らんだ所の境目を唇に引っ掛ける度に、ピクンって榊は反応する。美味しくなんてないのに、もっと舐めたいよ。

「ちょっ……出したばっかだから勘弁して――

「痛いの? じゃあ、ん……優しくして、あげるね……」

強く吸ったりするとたぶん痛いんだろうから、唇をすぼめないようにして舌で優しく舐めてあげる。

「あ……須藤……」

はあはあ息をしながら、榊はオレの頭を撫でてくれた。「気持ちいいの?」って聞くと、「イイ……」って苦しそうに答える。弱っちくてかわいい。

いろいろな所をペロペロ舐めながら探っていると、どの辺がいいのか何となく分かってくる。玉のところを指でふにふにと揉む。ここは優しく触ってあげなきゃダメなところだ、多分。舐めるときも、口の中で可愛がるみたいにムニュムニュと転がす。

ちんちんの裏のところを舌全体でべとーっと先っちょまで舐め上げると、呼吸の仕方がちょっと変わった。オレは何往復もそこをべとべとに舐めながら、榊の様子を観察する。顔を見上げると、目が合う。

「フェラしながらこっち見んなよ」

「なんで? ふぇら?」

「ハァ……。須藤、ちょっともう……入れたいんだけど」

入れたいって言われるの、何故かすごく嬉しいな。必死っぽくていい。

「うん……、分かった」

榊のオシッコの穴をちゅっと吸って唇を離す。しょっぱい。

オレが顔を上げると、榊にまたキスされて舌を突っ込まれた。まだ口の中がヘンな味なのにお構いなしだ。

口の中をぐちゅぐちゅかき回したまま、榊はオレのパンツを膝まで下ろした。太ももにぺちゃっと冷たい感触がした。

「お前……濡れ過ぎだろ、コレ」

「はっ……あっ……」

太ももに付いたぬるぬるするそれを、榊はつうっと指で撫で上げた。オレ、オシッコ漏らしちゃったの?

「なんでこんなべとべとするの? オシッコじゃないよね?」

榊の肩につかまって、膝立ちになったオレはその部分を見下ろした。暗闇にうっすらとしか確認できないけれど、パンツには確かに何か染みのようなものがあって、太ももはナメクジが這ったあとみたいになっている。どうしちゃったんだ。

「須藤は何にも知らないんだなー」

「ああっ、んんんっ……んっ、ふっ――

股のぬるぬるを全体に塗りたくられると腰がガクガクした。分かった、さっき榊のちんちん擦ってるときに出てきた涎みたいなやつと同じなんだ。気持ちよくなると出ちゃうのかな、恥ずかしいな。

「やっ!」

いきなり指をズブッと突っ込まれた。それから割れ目の奥の尖った所を親指で押してくる。腰がしびれて倒れちゃいそうで、榊の肩を抱き締める。すると今度はパジャマのボタンを片手で器用に外されて素っ裸にした後、乳首を吸われた。気持ちよくて仰け反っても、榊は乳首に吸い付いたまま離してくれない。

「ふあっ……アンッ、アンッ、さかきぃ……やだよぅ……」

「ヤダじゃない」

「んんっ、アッ……オシッコ漏れちゃうよぅ……」

トイレにはさっき行ってきたばかりのはずなのに、榊が弄るせいで出ちゃいそうになる。

「イクのはちょっと待て。できれば俺のでイクところ見たいし」

そう言うと、ちゅぽんと穴から出して、ねばねばの指を榊は咥えた。そして次の瞬間、榊は素早く着ていたシャツとトランクスを脱ぎ去ると、ばさっとオレを布団に押し付ける。オレはひっくり返ったカエルみたいな格好で裸の榊に組み敷かれた。

「ナマでしてもいいんだよな……?」

ナマってのはコンドーム着けないで、ってことなのかな。まあ、この辺りは学校で習ったから大丈夫だ。そういやオレ、学校で習ったことくらいしか分からないや。榊はなんだか色々知ってるっぽくて、ちょっとずるいな。

「あ……うん。まだ子供できたりはしないよ。生理、なってないし」

「ああ、何かちょっと罪悪感があるのは何でだろうな……」

「そういうもんなの?」

「学校の性教育のせいだな、きっと」

「ヘンなの」

オレが笑うと、榊はちょっと真面目な顔をして言った。

「生理始まったらちゃんと言えよ、避妊するから」

「うん」

「こないだも……ごめんな、いきなり……」

「だからもういいよー、大丈夫だって」

「こういう状況で説得力ないとは思うけど、俺はお前とエロいことだけしようってんじゃないから。大事にしたいからさ……」

そんなことを言われてドキドキした。胸が熱くなった。

「うん……」

「昔からずっと好きだった」

キスをした。榊の背中をぎゅっと抱き締める。広くてすべすべであったかい。榊がオレの体の中にゆっくり入ってきた。硬くて熱い。お腹の中がこじ開けられていく感じだ。じりじりと奥まで侵入してきて、穴の周りのべたべたした所が榊とぴったりくっ付いた。全部入ったみたいだ。

「痛くない?」

「うん、平気」

「動くよ」

「うん」

榊はオレを抱き締めて体を密着させた。脚を榊の腰に絡ませて、そのまま二人で体を揺さぶるようにして動いた。ちんちんを奥の方へぐりぐり押し付けられて、思わず声が出ちゃう。しかも強く押し付けるせいで割れ目のところが開かれて、オレの先っちょがぐちゅっぐちゅって擦れてたまんない。

「アンッ、アンッ、アンッ――!」

榊とこういうことしてるときはオレ、女なんだよなあ。恥ずかしいのに、もっといやらしくなるところ見られたいって思ってる。だからこんなふうにエロい声出して、もっとオレのこと見てって訴えるんだ。

「ハァッ、ハァッ……、お前、キツいな」

「アンッ、ひっ!」

動きが大きくなる。パンパンって音の中に、ぐちゃって粘つく音が混じる。腰を振るたびにお尻にぴたぴたと榊の玉が当たって、ちょっと間抜けだ。

「そんなギューギュー締めるなよ、俺すぐイっちゃうじゃん」

「だって、そんなっ、緩めるの……んっ、無理ぃっ」

榊はオレが抱き締める腕を解いて体を起こすと、今度は座った体勢で腰を打ちつけた。そして、

「やあああっ、ダメだってばっ! あひっ! そこはいじっちゃだめぇ……、んっ、ふうんっ……漏れちゃう、漏れちゃうよ」

オシッコの穴を、指で擦り上げる。榊はホントにそこばっかり弄りたがる。オシッコ漏れちゃうって言ってるのに。

「あ、あ、あ」

何か来る、オシッコ漏らすところ見られちゃう。指、止めてって榊の手をつかもうとしても簡単に制される。オレ、もう力が入らない。それなのにお腹はすごく気持ちが良くて、思いっきり脚で榊の腰を抱き締めちゃうんだ、もう無意識に。

「さかきっ、ホントにもう、ヤダよお! おかしくなっちゃ……おかしくなるからぁ――

「俺しかいないんだから、いいだろ。おかしくなれば……っ」

「あああっ、だめだったらっ! そこもダメっ」

オレが叫ぶと、中のダメだって言った場所に先っぽを押し付けて動いてくる。お腹の中をずんずん突かれて、苦しいのに気持ちがいい。ダメだけど、ダメじゃない。でも、おねだりなんて恥ずかしくてできないから、ダメだって言って、そこを思いっきり気持ちよくしてもらうんだ。

「はぁっ、はぁっ、あ゛っ、ん……」

榊と繋がってるところが焼けるみたいに熱い。榊のちんちんの先が、ずるっずるって何度もオレの中を引っ掻く。オシッコの溜まる場所が榊のちんちんで押し上げられて、オシッコの穴は指で擦られて、これじゃ絶対に出ちゃう。中も外も両方良すぎて、腰が溶けそうだ。

「ああああっ、もう……壊れちゃうぅ、榊ぃ……ごめん……」

つうっとお尻の方へ伝っていく感覚があった。漏らしちゃったみたいだ。榊があんまり指でいじくりまわすから……。

チョロチョロ放尿しちゃってるオレに構わず、榊はちんちんを思いっきり出し入れする。そのせいでもう一回波が来た。ちんちんの先を押し付けている場所からじわーっと熱くなって、その次にオレの中というか外というか、全身がぶるぶる震えた。榊のちんちんをギュッギュッてリズミカルに締め付けているのが自分でも分かった。

「あー……、あー……、はぁ……」

穴をきゅんきゅんさせながらも、オレはもうぐったりしていた。視線が定まらない。壊れちゃった。それなのに榊はまだ腰を止めてくれない。

「イってるな……、ムチャクチャきつい……。須藤、かわいいよ」

「ばか……」

「俺も、イっていい?」

「好きにしろ……」

榊は座ったまま後ろに手を付いて腰を跳ね上げるみたいに俺の中をガツガツと動いた。オレは震えた後、波が引くかと思ったのに意外にもずっと気持ちがいい。オレの中は熱いまま、またさっきと同じように腰がかあっとして震えそうだ。

ああ、やばいな、またギュってなっちゃうよ。そう思うと同時に、榊は「うっ」と呻いた。

「あっ、須藤……」

そうオレを呼ぶと、腰の動きが滑らかになった。お腹の中のぬるぬるが入口に溢れ出してくる。榊、射精したみたい。

「ハァ……、ハァ……、ハァ……やべ……」

「いったの?」

「ああ、イった……」

オレは体を起こして、榊と同じ格好になった。まだ繋がったままだ。

「まだ、出る?」

尋ねると、

「いや、もう……無理だろ……」

と、はあはあしながら榊は呟く。クタクタの榊をちょっといじめてみようかな、さっきはかなりオレの方がいじめられたし。

オレがぐちゅっと榊に腰を押し当てると、榊は「うぐっ」って呻いた。

こぼれた精液とかオレのオシッコでぐちゃぐちゃで、もうどうにでもなれって感じだ。オレは腰を振る。

中距離ランナーの体力の回復は早いのだ。

「あっ、あっ、あっ、榊っ、気持ちイイ?」

「ハァッ……、待てって……、もう勃たねえよ……」

榊のちんちんが柔らかくなってきたけど、構わずオレは腰を振った。ヨレヨレの榊はかわいい。

榊はあんまり体力がないので、マラソン大会なんかはいつもグロッキーになっている。それなのにさっきまであんなに頑張って動いて、ちょっと見直した。

「オレもっ、いっぱいして、あげるね」

「いや、ちょっと!」

榊を転がして上に乗って、ぺたっとうつ伏せた。顔中にキスをする。その間も腰はゆるゆる動かしている。

「榊も乳首弱いかな?」

オレが気持ちいいところは榊も気持ちがいいのかな。そう思って、乳首をペロッと舐めてみる。

「どう?」

「ん、悪くない……」

子供みたいにちゅぱちゅぱ吸い上げたり、ぱくっと口の中に収めて舌でレロレロ転がしたり。そうしていると乳首がコリコリに硬くなった。それをそっと甘噛みする。反対側もペロペロしているとすぐに硬くなる。唾まみれの乳首を指で馴染ませる。男もここ弄られるの好きなんだな。

榊の胸とか肩とか腹とか、好き放題ペロペロしていると榊はオレを抱いたまま体をむくっと起こした。

「復活した」

「へっ?」

ぼけっとしていると、いつの間に硬く太くなっていたちんちんが、ずちゅっとオレのお腹を刺激した。

「ひっ!」

「須藤、体力あるよな……ハァ……、さすが陸上部エース」

「榊も結構負けてない、と思う――!」

また激しく抉られる。膝の上に乗せてオレを持ち上げたり降ろしたりする。深く入り込まない代わりに、すごくいい所に当たって、オレは体を仰け反らせる。

さっき直前まで高まっていたのが、またぶり返すみたいにお腹の中に湧き上がってきた。

「ああっ、ごりごりしちゃやだぁ……、うぁっ……アンッ……」

自分でも腰を上下させる。ぱちゅっぱちゅって水っぽい音がした。オレ、また何か漏らしちゃってるのかな。もうどこもかしこもユルユルになってる。

「お前、俺が一回イク間に何回イクんだよ……。まったく、羨ましい体だな」

何度も何度も、榊がオレの中を擦り上げるたびに、小さく震える。榊が言うところの『イク』ってやつなんだろう。ちんちんをぐいぐい締め付けてる。

「ああんっ、ひぃっ、ひぃっ、オレ……、いくうぅ……」

「イキ癖ついちゃったんじゃないか、ほら」

「あああっ、あっ、アンッ――

オレはそんなことを言われて恥ずかしくて、必死に首を振って否定した。それでも一番弱いところをピンポイントで責め立てられると、また震えちゃうよ。イキすぎて頭がおかしくなる、ダメだよ、ダメだったら!

「許してっ、もう許してえぇ」

「ああっ、俺もイクから、最後まで受け止めろよ」

「ヤダっ、ヤダぁっ、あっ、んんっ――

榊は荒っぽい声で唸って、オレの体を強く抱き締めて腰を跳ねた。同時にちんちんをビクビクさせて、オレの中に精液をぶちまけている。

「あぁ……ハァ……、どんだけ出るんだ、俺は……」

繋がったまま、榊はオレを抱っこしてごろんと仰向けに転がった。二人でじっとして、はあはあと呼吸を整える。しばらくそうしていると、今度こそ小さく柔らかくなったちんちんが、ちゅるんとオレの中から出てきた。

オレよりも榊はずっと長い間呼吸が乱れたままだった。体力ないのに無理させちゃった。お疲れ様、榊。

疲れた体を無理やり起こして、オレたちは仲良く風呂に入った。体中べとべとで、股からとろりと精液が出てきたのでオレはぎょっとした。榊、たくさん出したんだなあ。

「さすがに二人で入ると狭いな」

そう言う榊の股の間にオレが入って肩まで浸かると、お湯が溢れそうになる。

「オレはくっ付けるから嬉しいよ」

榊の体は大きい。こんなふうにぴったりくっ付くまで、オレはそれを感じることがなかった。

「ハァ……俺、須藤の親父さんにぶん殴られる」

榊はため息をついた。

「大丈夫だよ。父さん榊のこと気に入ってるよ」

榊を連れてくると、父さんはいつもニコニコする。それで榊が帰った後、ちょっと冷やかされる。テレビなんかでよく見る「彼氏なんて許さん」とか言うようなタイプでは全然ない。

「いや、でも流石に手出したとなったら……、やばいと思う」

榊は言う。

「じゃあ一緒に言おっか、『オレたち付き合うことになりました』って」

「そうだな。俺が殴られたら、止めてくれる?」

「だからそんなことないってー」

「お前は男親のなんたるかを分かっていない」

そう言うと、榊はオレの頭をなでくり回した。

「まあ土下座でも何でも俺はするけどさ」

「大げさだよー」

「そういや須藤、俺んち来るって言ってあるんだろうな、こんな夜中に押しかけてきて」

「いや、父さんが寝てからこっそり……」

「お前、バカ! 何てことを……」

榊、しゅんとしちゃった。ほっぺに触って撫でてあげると、「明日の朝、ちゃんと電話するんだぞ」としょぼくれた声で言った。

「そうそう、そういえばな」

風呂から上がって、体を拭きながら榊は言う。

「昨日、魚住さんに怒られたんだ」

「優子に? 何て?」

優子が男子と話すなんて珍しいことなので、オレはちょっとびっくりした。他の女子やオレの前では堂々としてるくせに、男子の前ではオドオドする奴なのだ。男子とちゃんと話してみたいって、優子はオレによく言っている。

「いや、前のことがあってからずっと俺たち口きいてなかったろ。それでお前はずっと一人でいるし、ちょっと心配でさ。で、最近魚住さんとは結構話してるみたいだったから言ったんだ。『須藤をよろしく』って。『須藤と仲良くしてやってくれ』ってさ。そしたらめちゃくちゃ怒られたよ。『じゃあ榊君は今までずっと純と仲良くしてあげてたの? そんなの馬鹿にしてる、純はいつも誰かに守ってもらわなきゃいけないほど弱くないんだから!』って。それでちょっと反省した」

「へえー」

「何だよ、ニヤニヤするなよ」

「別に榊の言ったことにニヤニヤしてるんじゃないもん。優子イイ奴」

「おい」

今度、昼休憩のバレーボールに優子も誘おう。優子がちょっとでも男子と上手く話せるようになればいい。

それからオレたちは、同じ布団にくるまって眠った。榊はオレの体を後ろから抱き締めてくれた。やっぱり大きくてあったかかった。

翌朝、といっても昨夜が遅かったのでまんまと寝過ごし、もうすぐ昼だ。オレが家に電話すると、父さんがのっそりという感じで出てきた。今日、金物屋は定休日なのだ。榊の家にいると言うと、へーえ、と何ともつれない返事だった。後ろで榊が俺に代われとつつくので代わってやると、何だかペコペコ謝っている。

「あの、いえ……俺が呼んだんです。ハイ……すみません……」

ちょっと、嘘をつくな! と背中をはたくと、電話の向こうでガハハと笑う声が聞こえた。ほら、父さん怒ってなんかいないんだって。榊が気にしすぎなんだよ、もう。

「晩まで帰ってこなくていいからなー。休みなんだから二人で遊んでこい」

言い捨てて父さんは笑いながら電話を切った。

「どっか行く?」

と榊が振り返って尋ねる。

「うん、駅前でもぶらぶらしてみる?」

オレがそう言うと、榊は「デートだなー」と言ってちょっとデレデレした。

「そうだ、ちょっと来て。化粧してやる」

「ええ〜、榊が?」

「母さんほど上手くはないけど、須藤が自分でやるよりは多分綺麗にできるよ」

「ん……じゃあ、お願いしようかな」

「よしきた」

どうしてだろう、女の子みたいに化粧した顔を榊に見られるのはもう嫌じゃない気がする。

榊が気に入ってくれるなら少しくらい着飾ってみるのも悪くないかもしれない。駅前で服とか選んでもらおうかな。うわ、恥ずかしい。完全に女の子の思考回路だろ、コレ。

部屋でごろごろしながら待っていると、榊はおばさんの化粧道具やら、商品サンプルやらを持って帰ってきた。美術の時間でもこんなに画材を使うことはないと思う。それくらい、よく分からないちっちゃな瓶なんかがたくさん。

榊はオレの前髪を上げてヘアクリップで留めると、瓶の中の液体をささっと手に取ってオレの肌に塗りつける。意外と手際がいい。真剣な目でじっと見つめられると緊張した。

「動くなよー」

唇を刷毛で撫でられる。くすぐったい。恥ずかしいので目をつぶってしばらく待った。榊に触られるのってそれが体のどの部分でもドキドキする。なんて、考えるのはいやらしいかな。

「出来た」

その声に目を開けて鏡を見た。この間おばさんにやってもらった時よりもすごいことになっていた。

「えー、ケバいよー」

「そう?」

オレってこんな顔だったっけ。

「ちょっと気合入りすぎたか。確かにマスカラ厚塗りしすぎたな。もともと須藤って睫毛ボーボーだしな」

「ボーボーって……」

何かの液体で湿らせたコットンで榊が睫毛を拭うと、ちょっといつものオレっぽい顔に戻った。

「こんな感じ?」

と榊が機嫌を伺うような顔をする。

「うん!」

二人で路面電車に乗って駅前で下りると、日曜日の人だまりだ。家の周りの商店街も日曜日は賑わうけれど、駅ビルとデパートのあるこっちの比じゃない。

「手でも繋いでみる?」

榊がオレの手をこしょこしょと弄りながら言う。

「学校のやつに会ったらどうしよう」

オレが言うと、

「見せ付けてやりゃあいいでしょうに」

榊が口を尖らせるのが可笑しい。ためらう榊の手をオレはぎゅっと握ってみた。でもちょっとまだ恥ずかしいので思わず駆け出すと、

「うわっ、ちょっ、須藤みたいに俺は足速くないんだから」

と慌てて榊はオレの手を強く握り返して、走り出した。

十四歳・了>>十五歳へ続く

初出:Jun21, 2010 エロパロ板 【処女】ボーイッシュ六人目【貧乳】

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