〔一〕
「部長、バッテリーありますー?」
スニーカーを脱ぎながらその声の主の方を振り返ると、副部長の都は俺が言ったのと全然違う箱を漁っている。
「あっちに入れてあったろ、よく探してー」
「ないでーす」
イライラしながら俺は裸足でぺたぺた歩いて行って、ビデオカメラのバッテリーを取り出して都へ渡した。
「俺、次の棒上旗奪い出なきゃいけないんだけど」
都はずれたメガネを上げて、
「そうですか。ご愁傷様です」
とバッテリーを受け取るとニヤニヤする。
「都さ、その怪我ありきみたいな言い方やめてくれる? 去年は洒落にならんくらい痛かったんだから」
「去年は彼女と仲良くできてよかったじゃないですか」
一年前、どうせからかいのネタにされるだろうと思い、放送部の連中には須藤と付き合い始めたことを黙っていたのだが、わりとすぐにバレた。捻挫の処置を須藤にやってもらっていたところを見られて、散々はやされたのだ。女子の集団というのはこういうのをやたらと面白がるので困る。
「昨日修羅場ってましたけど、大丈夫でした?」
「いや、あんま大丈夫じゃない」
「須藤先輩相当怒ってましたね」
「よく見てるな」
「廊下爆走してましたね」
昨日、放送室内で俺たち二人がやり合っている時、都は放送室のすぐ外に居た。須藤を追ってドアを開けた俺を「あらあら」と哀れむような目で見ていたのだ。
「普通、ダッシュで追い駆けて捕まえますよ、あの場合は。なのに情けない」
「俺が追いつけるわけないだろ」
「ヘタレですねー」
臆面もなく言う。
「昨日部長が出て行ったあとでテレビ点けたら音量最大になっててびっくりしました」
「ごめん……。もしかして、入ってたビデオ見た?」
「いえ、見てませんけど」
「そう……」
「えっ、何ですか!? 呪いのビデオですか? こわー」
「いや、違う」
「じゃあ当てましょうか。部室でエロいビデオ見てたのが彼女にバレて思いっきり引っぱたかれた! 正解?」
「はずれ。エロいビデオは見てません。何で引っぱたかれたとか知ってるの……」
「腫れてました」
俺は項垂れた。
「彼女泣かしちゃだめじゃないですか」
「あいつはそうそう泣かないよ」
須藤が俺の前で泣いたのは一年前、初めて好きだと言ってくれたあの一回だけだ。あれはかわいらしかったな、などと思い出しながら、カメラを都に任せて俺はしぶしぶ競技者の待機の列へ並んだ。
競技を終え、本部席へ向かう。自旗は死守したが、膝は擦りむいた。せっかく治りかけていた膝の擦り傷がめくれてしまって、痛い。救急箱を借りることにする。
「あ、部長お疲れ様です……」
「ああ、久我山さん。アナウンス、うまく出来てたよ」
一昨日の彼女からの告白を頭の隅へ押しやったままで俺は喋る。まだ返事はしていない。準備の慌ただしさと昨日の一件で、久我山さんとはあれからろくに話ができていなかった。
久我山さんは視線を下げて、小さく頷いた。
久我山さんは一年生で六月から入ってきた新入部員だ。放送部へ入部してくる生徒はその仕事上、音楽が好きで、喋りも達者という子が多いが、久我山さんはそのどちらでもなかった。引っ込み思案で声も小さく、音楽の話を振ってもよく分からない、という顔をする。
四月に入部していた他の一年生がわりと派手な子たちであるせいもあって、久我山さんは部内でも少し浮いていた。
ただ、他のわがままでかまびすしい女子に比べれば、何を教えてもうんうんと大人しく聞いてくれるのでやりやすい。最近では部内のおおかたの機材を扱えるようになってきていた。喋りが苦手なのを克服しさえすれば、もっと色々任せることもできるのだが。
「あの、膝……」
血が滲んでいる俺の膝を見て、久我山さんは呟いた。
「ああ、大したことないよ。ちょっと消毒してくるわ」
「あのっ、わたし、えっと……手当します」
久我山さんは救護スペースへ走って行った。
「あの、部長は座っててください。ちょっと痛みますけど、ごめんなさい」
プシュッと消毒液を膝へ吹きつける。脱脂綿で拭った後、絆創膏をぺたりと貼る。目の前に屈んで処置をしてくれている彼女の手元を見ているとなんとなくエロい気分になってしまったので、慌ててポニーテールの結び目のところを見るようにした。「できた」と小さく呟いて、久我山さんはちょっと明るい表情を見せた。
「久我山さん、あの……。ああ、ちょっと人が多いからまずいな。この後、昼飯食ったら屋上に来てくれる? 一昨日言ってくれたことの話をしよう」
「はい……」
自分のことを好きだと言ってくれる人を拒絶しなければいけないというのは結構きつい。
教室に須藤はいなかったが、机の中を探るといつもの弁当箱が入っていた。まだ完全に愛想を尽かされたわけではないのだと安心するが、申し訳なさは募った。急いでかき込み、屋上へ向かう。
これから久我山さんに返事をしようというのに、須藤のことばかり考えている。午後、女子の対抗リレーで俺はカメラを回さなきゃいけない。あいつはアンカーだったな、きっちり録ってやらなきゃいけないな、とか。何をするにも、須藤か久我山さんのどちらかに悪い気がして、身が持たない。
一昨日、告白された場ではっきりと断っておけば、須藤をあんなに怒らせることはなかったのかもしれない。しかし、あの場でもし久我山さんに泣かれでもしたら、と俺はびくびくしていたし、須藤の前でそんなことになれば、もっとこじれたかもしれない。大会を控えている須藤に、心を乱すようなことをわざわざ知らせる必要はないだろうと気を遣ったのだが、結局ビデオを見せてしまった。俺のミスだ。
少し遅れて久我山さんが屋上へやってきた。隅の方へ腰かけて、俺は言葉を促すようにちょっと黙った。
「わたし、部活で色々教えてもらえて、すごく、嬉しくて。好きなんです、部長のこと。付き合ってもらえませんか」
久我山さんはぎゅっと唇を噛んで下を向いてしまった。一生懸命に言ってくれているのが分かって、俺は胸がシクシクしっ放しだった。
「俺、好きな子がいるんだ。だから久我山さんとは付き合えない」
黙る。この状況で何を言っても彼女は傷つくんだろうな、と思いながら言葉を探した。久我山さんがここで泣いちゃったらどうしよう、とヒヤヒヤする。
「久我山さんの気持ちは嬉しいよ、ありがとう」
俯いたまま、ゆっくりと彼女は頷いた。
「ごめんね」
一年前の自分と彼女の姿が重なったようで、痛々しかった。
本部へ戻り、午後の召集の放送をかけた。都がつかつかと近づいてきて、
「女子リレーのカメラは久我山ちゃんと一緒にお願いしますね」
と言う。
トラックの内側で久我山さんと二人、カメラを覗き込む。さっき振ったばかりの相手と触れるくらいくっつくのはひどく申し訳なかった。撮影者の声を拾わせないよう、耳打ちで会話しなければならないのも辛い。久我山さんもぎこちない。須藤の並んでいる方を見ると、ジト目で睨まれていた。
アンカーにバトンが渡ると、須藤は何かを爆発させたように走った。三位から、最初のコーナーで差を縮めて半周で二位に、次のコーナーで更に一人抜き去って、そのままトップでゴールした。
白組のテントからは歓声が上がった。震えた。須藤はもう俺を振り返らなかった。
「須藤先輩は格が違うなー、さすがですね。ね、部長」
都は無視して、次の男子リレーを録るために校舎へ上がることにした。グラウンドに隣接した南校舎には外へ張り出した廊下があって、そこには全体を撮るためのカメラを設置している。競技者に近いカメラと違って、録画ボタンを押して放っておくだけなので楽だ。
久我山さんのアナウンスの声が流れ、競技者が入ってくる。俺は三階の廊下からそれを眺めていた。何となくクラスのテントの方に目を遣る俺は、須藤がどこにいるのかとつい探してしまう。
「榊」
振り返ると、須藤が階段口に立っていた。頭の中では何か言わなければ、と思ってはいるのだが今何を言ったものか。しかもカメラは回しっぱなしなので喋るとまずいという思考が働いて言葉が出ない。
「榊、オレのこといらなくなっちゃった?」
なんてこと言うんだ、と思い俺は首を真横に振った。
「昨日はオレが悪かったよ。話も聞かずに逃げたりして、子供っぽかった、ごめん。オレ、榊のこと好きだから取られたくなかったんだ。榊が他の子の方へフラフラしちゃっても、それでも好きだから――」
これ全部後ろのカメラに録音されてるんだよな、と俺は考えていた。そして須藤がぶちまけてくれているのを何も言わずに聞いて、嬉しくて顔がにやけてしまいそうになるのを必死で堪えていた。友人の延長で付き合い始めたせいで、あまり好きだの何だのと言ってくれないから未だに免疫がないらしい。
「榊があの子のこと好きになっちゃったなら仕方ないって思ってるけど、オレ達もし別れるならもう友達にも戻れないから。好きなの我慢して、一緒には居られない。オレ、ばかだけどそんなに無神経にはなれないから……」
「ちょっと待て、いつ俺が久我山さ……、後輩のこと好きだって言ったよ?」
「後輩の子といちゃいちゃしてたし、さっきも」
「あれは……ごめん。多人数でカメラやると、どうしてもああなるんだ」
嫉妬してくれていたんだな、と思うと胸が熱くなった。
「妬いたよ」
「うちの部女子ばっかだから……、でも須藤からそう見えたんなら俺が軽率だった。ごめん」
「ううん、榊を責めたいんじゃないんだ。榊は悪くなかったもん。ただ、オレがつまんないことで妬いて、やきもちが頭ん中で整理できなくて、わけが分からなくなって、それで榊に八つ当たりしたんだ」
逆に俺は須藤に嫉妬をしたことがなかったように思う。
俺たちが付き合う前から、須藤は他の男子と仲良さげに話していたし、それは普通のことだった。また自分に対しても含め、そこに恋愛感情はないと俺は信じていたので。
こいつが他の男と、と考えてみてもまったく実感はわかない。一旦手に入れたら、もう誰かに奪われることはないと勝手に思っていたのだ。俺ってなんて都合のいい、めでたい頭をしているんだろう、と呆れる。そして、俺ばかりが須藤を不安にさせていたのだと思うと、申し訳なくて、どうしようもなく好きになる。
「後輩の告白は断わったよ。好きな子がいるって、はっきり言ったから」
「それ、オレのことでいいんだよね?」
須藤が尋ねる。
「他に誰がいるんだよ。俺がお前に何年片思いしてたと思ってるんだ」
「え、何年?」
キョトン、とした顔で須藤は首をかしげた。
「小五の頃からだから、付き合いだしてからも含めてもう四年くらいか」
「そんなに昔からだったんだ、知らなかった」
今さらこんなことを告白させられるのもなかなか恥ずかしいものだ。ふふっと須藤は笑った。
そうこうしているうち、久我山さんのアナウンスの声が聞こえ、俺ははっとした。男子リレーの競技が終わっていたらしい。
「うわ、やばいな」
「どしたの?」
カメラには俺たちのやり取りが全部入ってしまっている。
「声が入っちゃって、使えない」
カメラを指さして言うと、須藤は「ごめん」と目を伏せた。
「取りあえず、万が一のことも考えてテープは新しいのに換えとく」
足元に置いてある箱から急いで換えのテープを取り出す。顔を上げると須藤は俺の前にしゃがみ込んでいた。
「昨日、ぶってごめんね」
そう言って頬を撫でられる。
「結構痛かったよ」
そのまま、そっと壁に押しやられた。背中に当たる壁は硬くひんやりしていて、俺の胸に当たっている須藤の体は柔らかくて熱かった。抱きしめると、須藤は俺の頬を掴んでキスをしてくる。唾液の粘つく音までマイクが拾っていたら恥ずかしいよな、と思いながら俺は須藤の唇を貪った。
「ふ、……ん、なんか、ムズムズしちゃったな」
濡れた唇を手でゴシゴシと拭いながら、須藤は笑った。
体育祭はまだいくつか競技を残している。ムラムラしてしょうがなかったが、俺はさっさとテープを取り換えて本部に戻らなくてはならなかった。一人で処理する暇もない。
立ち上がってテープを入れ換えていると、都と久我山さんが階段を上がってきた。
「部長、もうテープ切れたんですか? 私がさっき見た時にはまだ余裕ありましたけど」
都が言う。
「え、ああ、うん」
俺はまだ半分ほど残っているテープを尻ポケットへ突っ込んだ。
「なんでポケットにテープ入れてるんですか?」
「いや、これはちょっと……。テープが中で巻いちゃってて、な?」
咄嗟に須藤へ話を振ると、
「あ、なんか、そうみたいだよ」
須藤も無理やり話を合わせてくれた。
「ふーん、まあいいですけど。それより須藤先輩、さっきのリレーすごかったですね。感動しちゃいました」
「あ、ありがとう」
「男子リレーは二人で仲良く観戦ですか?」
「ああ、うん……」
答える須藤は前を向いたまま、俺の体操着の裾をそっとつかんだ。
「やっぱりラブラブじゃないですかー」
事情を知らない都は久我山さんの前で、俺たちに屈託なくそんなことを喋った。久我山さんは悲しそうな目で俺と須藤を見て、俯いてしまった。告白した時に撮っていた人が俺の彼女だったと気づけば、ショックだろう。
久我山さんも、須藤も、都も悪くはない。俺に配慮が足りなかったのだが、先回りしてどうすることもできなかった。久我山さんに謝るべきか、とも考えたが、どう言ってもプライドを傷つけるだけだ。もしかしたら都が昨日の須藤との一件について無邪気に久我山さんに話すかもしれなかったが、それを俺が止めることもできなかった。
体育祭が終わるとすぐに文化祭の準備に取り掛からなければならなかった。毎年、文化祭のステージ発表では体育祭のダイジェスト映像を流すことになっている。
編集を始めようと8ミリテープを全て目の前に並べた。俺と須藤のやり取りが入ったやつはあらかじめその部分だけ音声を抜き取る作業をした。あんなもの他の奴に聴かれたら死ねる。俺は黙々と編集機のダイヤルを回した。
十一月に入ると県の中学校朗読大会というのが催される。文化祭と時期が被るので編集作業で忙しい俺は出ない。部からは都が出ることに決まった。
「都って憑依するよな」
隣で朗読の練習をしている都へ声をかけた。都の朗読のときの声はいつもの不貞腐れた低い声ではなく、鈴の鳴るような綺麗な声でゆったりと聞いていられる。アナウンスの時のちゃきちゃきした喋り方とも声色を変えているようだ。
「それは褒めてるんでしょうか、貶してるんでしょうか」
「褒めてるよ。特に台詞のとことか上手いじゃん」
「どうも」
都の読んでいる原稿を覗くと、本文の横へびっしりと書き込みがされていた。
「部長、ちょっと言いにくいんですけど」
「うん?」
「久我山ちゃんが退部しました」
俺は思わず「えー!」と大声を上げてしまった。
「久我山ちゃん、入部したの六月からだったから、四月に入部した他の子たちの輪に入れてなかったじゃないですか。久我山ちゃん以外はみんなもともとが友達同士だし。おまけに彼女、引っ込み思案な性格だから心配だったんですよ」
都は久我山さんの様子をよく見ていたと思う。都も入部したのがイレギュラーな時期で、ちょっとした疎外感を味わったことがある経験からだろうか。
「それで、一応何で辞めるのか聞いてみたんですけど、どうも色々あったみたいですね、部長」
責めるような口調ではなかった。俺は黙って頷いた。
「私、体育祭の時、知らずに部長と須藤先輩のことぺらぺら喋っちゃったんですよ。全く空気読めてませんでした。すみませんでした」
「いや、全然」
「久我山ちゃん、『部長のこと責めないでください』って言ってました」
「そっか、うん……」
「部長がモテるとか、いよいよ世紀末って感じです」
「さいですか……」
「あー、うまくフォローできなかった私は副部長失格ですよね。凹むわー」
都はメガネを丁寧に外して机に突っ伏すとジタバタしはじめた。
「都」
元凶は俺なので、そんな都を慰める立場にもないが、
「ありがとう。都は面倒見いいな。来年は安心して任せられるよ」
そう言うと、都は「うーん」と唸って、
「まあ、頑張りますよ」
と呟いた。
「でもさ、あっちを立てればこっちが立たず。うまくいかねーな」
「ちょっとモテたからって調子に乗ってますね。だいたい、須藤先輩は部長にはもったいないってみんな言ってますよ」
「え、みんな言ってるの?」
「まあ、概ねみんなです」
「あー、分かってるんだよー。俺がヘタレでダメな奴だってことはさあ……」
俺はしょぼくれた。都の言うことは確かなのだ。あいつは昔から、あのずば抜けた身体能力で校内ではすごく目立っている。最近、随分と可愛くなってきているし、今度は俺が須藤に嫉妬しなくてはならない事態もあるかもしれない。誰かにかっ攫われることだってないとは言えない。
覚悟はそれなりにしておかなければ。束縛ではないが、ちゃんとつかまえておかなければ俺ごときすぐに振られる。
「須藤先輩、カッコいいし、美人だし。なんで部長と付き合ってるんでしょう」
「俺に聞くなよ」
「部長が須藤先輩を傷つけた罪は重いです」
「やけに須藤の肩持つね」
「綺麗な人がいつだって正義」
「ひでー」
俺は仰け反った。
「自分にないものを持ってますからね」
「なるほど」
「あ、今の『なるほど』は聞き捨てならない!」
「自分で言ったんじゃないか」
俺は笑った。
「あと、三年の男子だったら安原先輩がかっこいいです」
都の口から意外な名前が出て、俺は噴き出してしまった。よりにもよってヤスだ。生徒会に所属していてリレーでも走っていたので、ヤスは結構目立つ。
「え、かっこよくないですか?」
「あー、綺麗な顔はしてるかな。女形っつーか。都、あいつと喋ったことあるの?」
「いえ、ないですけど」
「今度話しかけてみなよ。面白い奴だから」
「えー、知り合いでもないのにいきなり話しかけたら私変な人じゃないですかー」
「ヤスも変だから大丈夫だよ」
結局その日は作業にならず、都とだらだら話をして終わった。
数日後、文化祭前の部長会議を終え放送室に戻ると、もう皆帰ってしまっているらしく、鍵がかかっていた。
展示発表の時間にやるつもりのラジオ放送のプログラム作成は他の部員に任せてあって、俺はひたすら動画の編集作業に追われている。職員室に鍵を借りに行き、放送室で一人おとなしくビデオを入れ、編集機のダイヤルを回す。
途中、コツンと外に面している窓に何かが当たる音がしたので目を上げると、須藤がすぐ外にいた。俺は急いで二重サッシの窓を開けた。
「お前、池にはまるぞ」
放送室の窓のすぐ外は、実験用の池になっている。須藤はその縁のブロックにバランスよく立っていた。
「平気だよ。校舎に上がるのめんどくさくて、榊がいるのが外から見えたから渡って来ちゃった」
そう言って笑う。
後ずさって池に落ちても困るので、抱き上げて部屋へ入れた。
「靴脱いで」
「うん」
ひょいひょいと靴を脱いで、窓の桟へ裏返して縦に並べた。部屋へ下すと、
「ごめんね、オレ重いよね」
と言うので、
「全然、軽いよ」
そう答えた。この細い体からどうやったら走る時のあのパワーが出るのか、不思議だ。
須藤は編集機やテープをばら撒いている隣にぺたっと座ると、
「待っててもいい?」
と俺を見上げる。ここしばらく完全に二人きりになる時間がなかったので、その顔を見て急に込み上げてきてしまった。さっき抱き上げた時に触った胸の横あたりの柔らかい感触もまだ手に残っている。
「今日はいいや、もう仕事やめ」
「えっ?」
抱きしめると、「わ」と言って少し戦慄いたが、すぐに背中を抱いてくれた。
「外から見えちゃうよ?」
「じゃ、カーテン閉めて、部屋の鍵も閉めてくる。それから電気消して、したいことするけど、いい?」
尋ねると、「え、ええ?」と驚いたような顔をするのだが、全く分かっていなかったわけでもあるまい。俺は立ち上がって、カーテンを閉めて鍵も閉めて、放送室の電源も落とした。外の『ON AIR』のランプは消えたはずだ。
薄暗い部屋へ戻ると須藤は何故かちょこんと正座して待っていたので笑った。
「嫌?」
尋ねると、
「いやじゃない……」
小声で言って、俯く。須藤は普段男らしく振舞っていても、こういうときの恥じらう仕草はちゃんと女の子で、可愛らしい。それから、最中の激しく乱れた須藤も官能的でいい。焦らして散々恥ずかしがらせようか、それともとっとといかせて、いかせまくって乱れさせようか考える。
軽くキスをした。くっつけたり離したりを何度も繰り返していると、須藤が俺の胸に手を置く。
「榊はオレの何がいいの? 女の子らしくないじゃん、オレ」
「女は女らしく、しとやかでいなければいけないって既存の価値観、退屈と思わない?」
決して須藤が男っぽいから好きなのではない。じゃあ何がいいのかと聞かれてはっきりこれと言えるほど単純な気持ちでもない。なので、俺は問いを煙に巻いた。
例えば俺は女のカマトトを見破れない。それほど小慣れてはいないのだ。だから、たとえ「女らしい子が好き」と言ったところで、所詮は盛りのついた学生の戯言なのだと思う。
須藤の口の中を舐め回しながら、ゆっくりと仰向けに寝かせる。セーラー服のタイをほどくのに手間取る。素面でならこんなものちょいちょいと外せるだろうに。のぼせているのだ、俺は。
「榊は女の子らしくない方が好き?」
制服の上から胸を掴むと、須藤はふっとため息を吐いて俺に尋ねた。
「女の子らしいってのが何なのか俺にはよく分からないよ」
ボタンを外して胸の前をはだけさせた。襟ぐりの広い薄手の白シャツの下にブラジャーが透けている。
「須藤はただ好きって思われるだけじゃダメ? 理由がいるの?」
「理由っていうか……自信ないから。でも今さら女っぽくしようと思っても何か気色わるいって思っちゃって。オレ、見ての通り男っぽいしさ」
「見ての通りって、どう見ても女だと思うけど」
須藤は首を横に振った。
「胸だって小さいし……。あ、大きいのも邪魔だから嫌だけど! でも、男は大きい方が好きだろ?」
「大きければいいってもんじゃないよ」
俺はシャツを捲り上げた。
「あ、こないだのやつと違う」
前に俺の部屋で脱がせたときに見た白いブラジャーのおそらく色違いだろう。可愛らしい見た目の物を嫌う須藤がいかにも選びそうな、飾り気のないつるんとした生地のものだ。
「あ、洗い替え用……」
また手で隠そうとしながら身を捩るので、手首を掴んで頭の上へ置く。
「水色って好き」
「榊の好みは聞いてない」
「さっき胸が大きい方がいいかって聞いたじゃん」
むっとされる。
背中に手を回してブラジャーを外す。何とか片手で上手くいった。細くて筋肉質な体に、柔らかな脂肪の塊が二つ乗っている。先端は綺麗なピンク色だ。まだ触れていないので、その色は絵具が滲んだように白い肌にじわっと広がっている。
首周りの日焼け跡の境界をゆっくりと舐める。
「ふっ……うぅん……」
乳首には触れないように、乳房の周りを指で掠める程度になぞった。くすぐったそうにごそごそと動くので可愛い。
「須藤の見た目なら、好きなところはわりとはっきり言えるかな」
「どこ?」
「顔、可愛いし」
「嘘だ……」
自覚がないのが困る。元々が綺麗ではあるが、特に最近は俺が眉毛をいじったり睫毛をカールさせたりして遊ぶので、ほったらかしの頃と比べて見栄えがいい。
「あと、体も好きだな」
日に焼けていない部分へ舌を這わせていく。須藤の肌はどうしてこうも甘いのだろうか。くらくらする。
「筋肉で締まっててカッコいい。このへんとか」
腹を舐めると、「ひゃっ」と声を上げた。吸いつく。
「あと、色白だから日焼け跡とかくっきり付いてるのがエロいし……、乳輪の色は綺麗なピンクで、ちょっと大きめでふわっと広がってるところが好き。おっぱいの大きさはこのくらいでいいよ、可愛いよ」
腹から舐め上げていって、乳首のすぐ裾まで到達する。見上げると、
「う……もう、それ以上言わなくてっ、いいから……んんっ――」
涙目で俺を見る。たまらなくなったので先端にしゃぶりつくと、気持ち良さそうに須藤は胸を仰け反らせた。もう少し焦らして遊ぼうと思っていたのに堪え性のない俺だ。
「感度もいいだろ……、弄るとすぐ硬くなるのな」
「ふぅんっ……アッ……、だめぇ……」
膨らみの中心へ埋もれがちにぺちゃっと付いている乳首は、舌でちょっと可愛がってやるとすぐに勃起する。口の中で舌を尖らせて乳首をほじるように舐めると、ますます硬くなっていった。
唾液をたっぷりと含ませたまま唇を離すと、とろとろにヌメってエロい。触れていない方の胸はまだ乳輪がだらしなく広がったままで、舐めた方はギュッと縮こまっている。
反対側も同じようにコリコリに勃起させてやろうと舌を当てる。
「あっ、ふぅっ……んっ、榊、だめ……榊、あっ……やっ――」
鼻にかかった切ない声で名前を呼ばれると、下半身がじわっとくる。
少し強めにちゅうっと吸い上げ、離す。そしてまた吸いついて、今度は舌全体で唾液を塗るように大きく舐め回す。
「あぅん、ああ、んんっ……」
「気持ちいい?」
尋ねると、須藤は小さく頷いた。
俺は子供が乳を吸い出すように、こくんこくんと喉を鳴らしながら頬張った。乳首の先端の、将来的には乳が出てくるであろう箇所がどうもひどく感じてしまうらしい。そこを慰めるように舌で弄ると、須藤は可愛らしく喘ぎながら俺の頭を撫でるのだった。
「はぁっ、はぁん……ちくびばっかり……やぁ……んっ」
ずっとそこばかり弄っていると、須藤は声を上げた。
「じゃ、次はどこを弄ろうか」
「いじわる、言うな……」
時間はまだたっぷりとある。誰に邪魔されることもない。満足のいくまで触れてやりたい。
「榊だけ、なんで脱いでないの。オレばっか裸にしてさ」
「脱いだ方がいい? 脱いだの見たい?」
「うるさい、さっさと脱げ」
言われるがまま、俺はてきぱきと学ランとシャツとズボンを脱いだ。普段活動している部室で須藤を脱がすのはいいが、自分が脱ぐのは妙な気恥かしさがあった。
須藤のスカートも皺になるので下してやる。セーラー服は乱れたまま、スパッツは穿いたまま、という姿はアンバランスでいい。
「女子の服の脱がせ方知ってる俺ってエロいよね」
ふざけて言うと、胸をはたかれた。
須藤を立たせて、傍にある長机に手をついた姿勢にさせる。
「何するんだよ……?」
「尻もうちょっと突き出して」
須藤はちょっと不貞腐れた感じで、体勢を下げて俺の方へ尻を向けた。
スパッツは尻にぴたっとなっていて、下着のラインもくっきりと出ている。それを指でなぞる。脇から中心へ向けてそっと押すように、柔らかいところはそれなりに。
「バカ……、榊のスケベ、変態」
「男なんてみんなスケベで変態だよ」
一番柔らかい所を押すと、腰がぴくんと跳ねる。押したまま指を前後に擦らせると、
「あぁ、あ……やだ、んっ、やだ……」
と拒否をするのだが声色は甘く、もっと刺激を欲しがっているように俺には聞こえる。
割れ目のところを重点的に擦り上げていると、少し指に湿り気を感じるようになってきた。スパッツに染み出すほど溢れさせるつもりで、更に強めに弄り始めると次第に声が大きくなっていく。
「ふぅ、んぐぅ……あっ、んんっ……だ、め……んむ……」
「声出しても平気だよ?」
「やだ……」
「防音だから、よがりまくっても大丈夫だから」
「うぅ……」
顔を見ると、赤かった。最近、家でするときにはいつも声を我慢していたせいで、喘ぐことがすっかり恥ずかしくなってしまったらしい。
無理やりにでも声を出させたかった。恥ずかしそうな甘ったるい鼻声も好きだが、もっと激しく啼かせてみたい。絶頂の時に思わず出る獣のような声で俺を呼んで、始終喘ぐのを聞きたかった。
スパッツの股のところはもう随分とヌメってきていて、スムーズに指が滑る。俺は下着もスパッツも一緒に膝まで一気に引き下ろした。愛液がとろとろとしつこく糸を引いている。
「こんなにびしょびしょにして、須藤はしょうがないなー」
「う、るさい……。榊のせいじゃん、榊がエロいからだろ」
「須藤はエロくないの?」
筋肉で引き締まった見た目に反して、プリッと柔らかな尻の肉をそっと掴む。
「んっ……、榊ほどじゃない……」
「嘘つけー」
愛液を留めている陰毛をこよりのように弄りながらちょいっと引っ張ると、びくんと膝が動く。
「痛いよ、ばか」
「だいぶ生えてきたよね」
「うるさいっ」
蹴られた。しかし、そろそろからかって虐めるのも終わりだ。今からは責め立てて虐める。
俺はその場に膝をついて尻肉を両手で掴んだ。
「わわっ、ちょっと待ってよ、嫌だって!」
拒否は聞かずに、真っ白で引き締まった尻を舌でなぞると、むずがるように太腿をもじもじと動かす。隙間に顔を埋めた。
「ひゃっ、やめっ……んふぅ……んぅっ……」
汗で蒸れた甘い匂いに、俺は漲ってしまった。舌を伸ばして愛液の溜まっている箇所を探ると、須藤はつま先に力を入れたり抜いたりするので、がくんがくんとまるで誘うように腰が動いた。
「あはあっ、あぅっ! んふぅ、うぅんっ!」
際限なく愛液は溢れて、須藤の股全体から足の付け根までを濡らしている。また俺も口の端から垂れてくるのが愛液なのか涎なのか分からないほど、それを啜ることに夢中になっていた。
「ん……しょっぱい……」
「うっ、しょうがないだろ……部活の後なんだからっ……うあぁっ――!」
「汗じゃないのも、出て……きてるっぽいけど……」
じゅるじゅるとわざと音を立てて啜り上げると、
「ふぅんんんっ――!」
須藤はぴんとつま先立ちになって、胸を仰け反らせる。尻を引こうとするので、無理やりに腰をこちら側へ引っ掴んで、更に深く鼻先を埋めた。じゅっ、じゅっと舐め上げ、啜ると、苦しいので呼吸も荒くなる。自分の性器はまだ一つも触れていないのに、恥ずかしげもなく思いきり勃起して、恐らくは先走っていた。
舌の先でクリトリスの包皮と思われる場所を突いて広げてやる。それだけでもう須藤はぷるんと尻をびくつかせるのでたまらない。敏感すぎる。
舌の腹へとろとろと垂れてくる愛液をクリトリスへ塗り込めるのを繰り返すうち、ぷっくりとそこは具合よく勃起した。硬く腫らして、ここでいかされるのを待っているようだ。
須藤の声は、だんだん掠れるようになってきた。鼻にかかった甘え声から、吐息を多分に含んだ色気のある声に変わる。
「はぁーっ、はぁーっ、はぁっ……。あ゛ーっ……」
と、快感に集中するように啼いている。その集中をわざと邪魔するように名前を呼んでみる。
「須藤?」
「はぁ……、はぁーっ、んっ、なに……?」
「気持ちいい?」
「うん、すごい……気持ちい……」
素直になり始めている。徐々に乱れてきている兆候だ。
「一回いかせてもいい?」
「うん……いく……」
目をトロンとさせて須藤はうっとりと喋った。俺は舌先を尖らせて、膣口へ突っ込む。入口を舌でぐりぐりと押しやって広げる。
俺は顔を一度離して、
「左足だけ机の上に乗せてごらん」
と促した。須藤は俺を振り返ったまま頷いて、足首に引っ掛かっているスパッツからゆっくりと右足を抜くと、机の上に左足を乗せた。机の上で左足首に纏わりついているスパッツと下着のクロッチ部分はべっとりと濡れて光っている。
それからセーラー服が肩からちょっと落ちているのもそのままに、
「これでいいかな……?」
と、思いきり開脚した体勢で俺に頼りない表情を見せる。どうしようもなく煽情的だった。
唇を吸う。すると須藤はすぐに舌を出してくるので、唇を少し離して舌先だけで愛撫し合った。だらしない舌の出し方だった。
尻を撫でて股間をまさぐるとベタベタで何が何だか分からない。机の上に滴りそうなほどたっぷりと濡れていて、触れないうちにちょっと乾いたんじゃないかなどという心配は余計だった。
俺が中指と薬指を埋め込むと須藤は舌をめいっぱい出したまま、
「へ、あ……ひぁ……」
などと声にならない声を上げるので、舌を吸ってやった。ますます苦しそうに呻くので興奮する。
ゆっくりと出し入れをしてやる。じゅぷっじゅぷっと卑猥な音が響く間にも、舌同士の愛撫は止めない。須藤のだらしない喘ぎを聞かせてほしい。
「いくまで舌引っ込めるなよ」
少し乱暴な口調でそう言いつけると、須藤は素直にこくんと頷いた。
「は、あ……、へぁ……、んあ――」
須藤の舌先から唾液を掬い取り、堪能してまた返す。そして唇で舌をしごいてやりながら、指では須藤の膣の中を思いきりかき回した。
どこがいいのかを確認するように、少し指を曲げた状態で壁を軽く押す。長いことそうやって弄っていると、反応の変わる場所を見つけた。俺はそこをしつこく撫でる。
「や……あぁ、あ、あ、ああ……やら、やらぁ、やっ……はぁ――」
須藤が舌を引っ込めそうになるのを、無理やり唇で咥えて離さないようにする。指のストロークの速度は少しも変えていないはずなのに、愛液の泡立つような音はどんどん水っぽく、激しくなっていった。指に愛液がだらだらと伝っていくのが分かる。見ると泡立ちすぎて真っ白になっていた。
そろそろいかせてやろうかと、俺は左手でクリトリスの皮を剥いた。触った瞬間に、須藤は机の上に乗せている左足をバタつかせて、叫ぶ。
「ああーっ、へぁっ! ああぁぁぁーっ!」
クリトリスは快感が鋭いのだろう。俺に舌先を軽く噛まれた状態で、涙目になりながら須藤は体を震わせた。
「ん、乳首、自分で弄って」
言い放つと、乳首をつまんでてっぺんの窪みをすりすりと指の腹で捏ねている。ああ、その触り方が好きなんだな、と俺は学習する。やはり乳首を弾くよりも、丁寧に乳の出る穴の周辺を虐めてやるのが良さそうだ。
須藤が感じると思われるところはできるだけ全て塞いだ。あとはこのままクリトリスをしごき上げながら、膣をかき出すように責めて、絶頂へ導くだけだ。
「んむっ――」
深くキスをして、須藤の舌を口の中全体で味わう。ずっと舌を出しっぱなしで喘いでいたせいで、口の端から涎を垂らしている須藤はひどくはしたない。
「んむあぁっ、うああぁっ! あ゛あ゛んっ!」
グチュグチュとかき回し、速度を上げる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ――!」
膣の中がビクビクとうごめいて、絶頂が近い。クリトリスはパンパンに膨らんでしまっている。責め立てる。須藤は自分の乳首をぎゅうぎゅうにつねっている。もう痛みさえ快感なのだろうか。
じゅぷじゅぷと潮なのか、小便なのか分からない液体が漏れ出し、更に白く泡立った愛液と混じって机に滴り落ちる。俺は激しく指を出し入れする。
「やーっ! ひあああああ゛あ゛あ゛ーっ!」
下半身をガクガクと波打たせ、上体を仰け反らせて、須藤は達してしまった。
そんな痴態を見せつけられて、俺の方も我慢の限界だった。すぐにでも突っ込んでやろうと性器を取り出し、自分で軽くしごく。それから頭の片隅にギリギリ残っている理性で、俺は半ばイライラしながらコンドームを着けて、須藤の膣口へ後ろからあてがった。
「こうやってセックスしたいと思ってるのって俺だけじゃないよな?」
汗ばんだ尻の肉を強く掴んで引き寄せる。猛った性器を陰唇に何度も擦りつけた。須藤はまだ少しだけ震えながら、
「オレだって、したいんだよ……?」
と答える。後ろから挿入して繋がる。指では広がりきらなかった膣が俺をきつく締めつけながらも、ゆっくりとその最後の綻びを許す。
「あ、あっ、あ……」
須藤は深く入れられながらも俺の方へ体を捩ってキスをねだるような顔をする。俺は抱きしめてキスをして、下半身では一番奥まで味わおうと腰をくっつけた。
「全部入ったな」
「ん……」
「顔、やらしー……」
そう言うと、須藤は泣きそうな表情でプルプルと首を振る。何が違うんだ、顔も体もこんなに出来上がってるくせに。そう思い、俺が腰を打ちつけると喉の奥から「あああっ」と獣のように叫んで、俺をぎゅっと締めつけた。
それからはもう突き上げるのみだった。須藤の右足も机の上に上げてやって、机上で脚を開いてしゃがむ格好をさせる。放送ブースが見える大きなアクリル窓がすぐ目の前にはある。その窓枠へ須藤を掴まらせて、俺は須藤の腰を掴んで思いきり揺さぶった。
「アンッ、アンッ、ふああぁんっ!」
まだだ、もっと絶叫させる。
「ああああっ! やあ゛あ゛ーっ!」
出し入れに複雑な角度をつけてやると、いい声が出る。愛液は乾く暇もないほど溢れてきて、打ちつける度にびちゃびちゃと卑猥な音を立てた。
「ああっ、須藤っ! もっと、声出せ!」
応えて獣のように吠える。
「ほらっ、どこが気持ちいいのかちゃんと言え!」
「アンッ、あああっ! 榊の、入ってるとこっ!」
前に手を回して、クリトリスに指を当てた。腰の動きで勝手にそれが擦れる。須藤は啼き声を上げる。
「ひあぁぁぁんっ!」
「ここは、何ていうか前に教えたろ」
「クリトリス……?」
「じゃあ、俺にチンポ突っ込まれてるところは何ていうの」
「お、オマンコ……?」
「分かってるじゃないかっ」
「んひぃっ!」
ガツガツと好き勝手に俺は腰を揺らした。目の前の窓には須藤と俺が繋がっている様子が反射している。
「前、見てみなよ。ずっぽりはまってる」
須藤は顔を上げてそれを確認すると、ふっと目を逸らした。
「どこに何が入っているでしょう?」
突きながら須藤を促す。
「オレの……オマンコ、に……榊のちんちん……」
言わせるとたまらなくなった。
「気持ちいいんだろ?」
尋ねると須藤はうんうん、と懸命に首を振る。
「じゃあどこが気持ちいいの? 言わなきゃ」
「オマンコ、気持ちいい……。すごく、いいよぅ……榊ぃ……」
「めちゃくちゃやらしいな、お前」
そろそろ俺も限界が近い。須藤の奥を捏ねるように出し入れを繰り返す。入口まで引いて、一気に突き込む。そしてまた奥をぐりぐりとかき混ぜるように味わう。須藤は我を忘れて喘いでいる。
「気持ちいっ、気持ちいいようっ! ああっ、はぁっ! も、いっちゃうっ!」
「俺のこと呼びながらいけよ」
「あ゛ーっ、榊っ、榊ぃっ! いくっ! いくいくいくぅ!」
完全に乱れてしまった須藤は俺をしきりに呼びながら絶頂を知らせる。応えて、突く。
「い゛ぐっ! もぅっ、らめっ! いぐ、い゛ぐうぅーっ!」
瞬間、ぐぐっと膣壁が狭くなった。達する前の締め付けとは全く違う動き方をする。容赦なく須藤が俺の性器を引き込む。俺の射精も引き出される。
もう射精を堪える必要はない。俺は自分の気持ちいいように、好き勝手動いた。まだ脈動している須藤の中を泳ぎまくる。内側の凹凸をカリで味わう。
須藤は力が入らなくなっているらしく、弱々しく窓枠に掴っているので、引きはがして背中をぎゅっと抱いた体勢で動いた。
俺は須藤の中に一枚隔ててめいっぱい射精した。
出し切った後で引き抜くと、須藤は机にへたり込んだ。
「腰が……」
抜けてしまったらしい。
脱力している須藤を抱きかかえて机から下ろして、ちゃんと拭いてあげて、ブラジャーのホックを留めて、シャツをきちんと着せてやる。制服のボタンも留める。腕の中でじっとしてされるがままなので、俺は甲斐甲斐しくそうやって服を着せてやるのだ。
脱がせる時は性欲、着せるときは愛情、かどうかは知らないが、終わった後は労わってやりたかった。俺がバカスカ突っ込んだせいで、腰も立たないくらいヘロヘロにさせてしまったので。
「俺、ちょっと乱暴にやり過ぎたかな?」
「ん……平気……」
「痛くなかった?」
「うん。気持ちよかった……」
くるむように抱いてカーペットの上に二人して転がると、須藤は俺の腕の中で安心したような表情になる。
「なんかさ、オレ、榊の体ばっか欲しがってるみたいでさ……ごめんね?」
理性をかなぐり捨てて快楽に溺れたさっきの自分を恥じているのだろうか。
「いや、俺も須藤が乱れるところ見たかったんだ。だからあんなに激しくしてしまった」
「そっか、うん……。オレってさ、結構……エロいよね。榊のこと好きだから体に触りたくて、触りたいって思ったらあんまりためらわないからさ。下品……かな?」
「いや、全然。別に悪いことしてるわけじゃないんだから。相手を気持ち良くさせようとする行為で自分も気持ち良くなるって素晴らしいと思うんだけど」
そう言うと、
「相手がまず先にくるあたりが榊らしいな」
と笑われた。
「オレ本当は今日、部活途中で切り上げて来ちゃったんだ。どうしても、触りたかったんだ、榊に」
須藤は俺の胸に顔をうずめた。
「体育祭の時に、嫉妬してどうしようもなくって、あれからなかなか二人っきりになる機会もなかったから。我慢できなくなっちゃった……」
俺の腹の辺りに声がこもる。不安を埋めるためにセックスしたいのならいくらでも付き合うよ。そもそも、その不安の原因は俺だし、俺がどうにかできなきゃ何のために彼氏やってんだ、と思う。
普段はコヨーテみたいに孤高で、一人でいてもちっとも寂しくない、というように振舞うくせに、こんなふうにチラっとだけ見せられたら俺は目を離せなくなってしまう。そのくせ俺が甘えようとすると、普段の孤高さでもって素っ気なく返されてしまうことが多い。
須藤はつれない。自分のことは何でも自分でやれるし、俺と違って孤独に耐えられる奴だ。強い奴が自分だけに見せる無防備さにグッとくるとか、須藤がもうちょっと甘えたり、色々と頼ってくれたら嬉しいのにとか思うのは所詮、俺が甘ったれた男だからなのかもしれないが。
すごく仲良くなって打ち解けたように感じても、須藤は全く触れられない部分を持っている。具体的に言えば、家のことや、もはや実力は全国レベルである陸上競技のこと。もちろん俺の手には余ることなのだろうが、俺はそれらを不躾にえぐり出して、撫でたい。
「榊、あのさ」
「ん?」
「久我山さんって子、元気にしてる?」
「辞めたって」
「そっか……」
「しょげるなよ。須藤のせいじゃないだろ」
「うん……。榊、オレね、トラックを走ってる時は常に人と競ってるし、タイムが出たあとも、いつ自分の記録が抜かれるかと思ってヒヤヒヤしてるんだ。陸上って記録が全てだから」
須藤は常に勝負の世界にいる。誰かを蹴落としたり、蹴落とされたりしている。
「陸上は競技だからさ、割り切っていられるんだ。でもこないだのことで、榊が取られるって思ったら怖くて、オレ久我山さんを傷つけても絶対立ち位置守りたくて――」
「もうそれ以上、言わなくていいよ」
抱きしめると須藤は体を捩った。
「榊ともっと仲良くなるために久我山さん踏み台にしたみたいだ。オレにも、榊にもどうしようもないの分かってるけど……」
すれ違った後にくっつけたら余計に恋しくなる現象に名前はあるのだろうか。俺たちはそうして仲を深めるために久我山さんを利用したのだろうか。いや、そのつもりは全くなかったが、結果としてそうなってしまった。二人でいるために久我山さんを自分の生活の枠から弾き出したのだ。
そして須藤が俺の思うよりもっと彼女のことを気に病んでいるという事実に俺の胸は痛んだ。
自分が取り合われていたということに浮かれる気持ちには到底なれなかった。
「いたずらに傷つけたわけじゃないから」
もはや自分に言い聞かせているようだった。
初出:Sep3, 2010 エロパロ板 【処女】ボーイッシュ六人目【貧乳】